ナン・リン氏の『ソーシャル・キャピタル』と稲葉陽二氏の『ソーシャル・キャピタル入門』に関する覚書
ナン・リン氏の『ソーシャル・キャピタル――社会構造と行為の理論』(2001=2008)と,稲葉陽二氏の『ソーシャル・キャピタル入門――孤立から絆へ』(2011)を読んでみた.以下,覚書.
(1) 社会関係資本の定義はいろいろあるが,方向性は同じである,と論者は決まって主張する.
(2) リン氏は,社会系の学問分野の難題であるマクロ・ミクロ問題への貢献を主張するが,実際は,社会関係資本理論の内部にマクロ・ミクロのグラデーションがある.理論の混乱と見られても仕方がないかもしれない.
(3) 稲葉氏は,社会関係資本のために経済格差を縮小する政策を説く.私は説得力があると思うが,社会関係資本か経済格差=市場競争かの選択はもはや,政治的な意志決定を要する価値判断である.政策革新の基本と想定されてきた政権交代によっても,社会関係資本の重視を,ウィリアム・J・クリントン元米大統領のように,明確に打ち出せなかった日本の現実は重い.
(4) 日本の中央省庁で最も社会関係資本政策に熱心な内閣府の文書からは,社会関係資本の整備によって,官の機能を民のNPOなどに担わせたいとの新自由主義的な意図が見える.日本では,経済格差を拡大させてきたかもしれない新自由主義と,社会関係資本政策は同根かもしれない.
(5) ロバート・パットナム氏による米国のコミュニティーが衰退しているとの指摘に対して,リン氏は,サイバーネットワークの発展がコミュニティーの衰退を穴埋めしている可能性を指摘している.だが稲葉氏は,インターネットなどの社会関係資本を肯定的に評価した文献を紹介していない.文献がないことはないと思うが,定量しにくいか肯定的な結果が出ないかではないかと推測する.